キジログ@愛

鴨宮☆隆がその半生を綴るブログ

旧友

日曜日、昼間からファミレスのクーポンで安いビールを飲んで帰宅し自宅でのんびりしていたら携帯が鳴りました。表示された名前は大学時代の旧友。彼とはもう何年も会っていないし電話でも話していません。なんだろうと思いながらも、とりあえず電話に出ました。

「おう、久し振り。キジちゃん元気にしてた?」

「すげー久し振りだな。こっちは変わんないよ。そっちはどうよ?」

「仕事が忙しいけど他は別に変わんないわ。今日は久し振りに出歩いてるんだけど」

「仕事忙しいんだ?いや、いい事だね」

「ところでちょっと教えて欲しいんだけどさ、キジちゃんちの近くで昼間っから飲める所ってどっか知ってる?」

「飲めるところ?ああ、この辺だとあそことかあの辺に飲み屋街があるから、行けばどっかの店はやってると思うよ」

天気のいい日曜日。今日は彼の友達の結婚式があり、それに出席する為に私の住む町へとやってきたのだそうです。午前中から執り行われた式は昼過ぎに終わり、そして時間をもてあました彼は一緒に出席した友人らと酒を飲める店を探していたのだとか。

彼は私の1個下で大学時代の友人です。大学に入るとき、彼は2年遅れでした。(私は3年遅れ)
初めて彼に会ったのは大学が開始して間もない頃に開催された学科の合宿の、宿舎の廊下においてでした。その時の事はなぜか今でも鮮明に覚えています。

 

私の人生において、その人を一目見て「ああ、そうか」と分かってしてしまう事が過去に何度かありました。彼はそのうちの一人で、一目見た瞬間に彼の事が理解できました。この感覚はなんとも説明しづらいのですが、別の言い方をすれば単に「フィーリングがバッチリ合う」という感じに近いです。

彼の方も私に対して同じような感覚を得たらしく、あとで答え合わせをしてお互いに「やっぱりね」なんて笑い合ったりしました。

彼とは大学時代を一緒に過ごしましたが、毎日一緒に過ごしたりだとかそういう至近な距離感ではなく、どちらかというとお互いに付かず離れず、適当な距離感を保ちながら接していました。でも、離れていてもお互いがお互いの事を理解できる、出会ってからはずっとそんな感覚を相互に抱いていたように思います。

 

彼が大学時代からの彼女と結婚したとき、私は式に出席しました。私の住む町には結婚式場がたくさんあって、東京郊外にお住む彼もこっちの地域まで来て式を挙げました。式会場はこの界隈でちょっとした人気のあるお洒落なレストランで、それは奥さんの趣味に合わせたのだそうです。

間もなく子供も生まれ、土地を買い、そこに建てた家は奥さんの趣味に合うようにヨーロッパ調の内外装にしたのだそうです。出産祝いと新築祝いを兼ねて一度彼の家に遊びに行きましたが、なるほど、彼の生家である庶民的な昭和の家屋とは違います。郊外の住宅街にあってほんの少し目立つ程度の外装だったり、内装は細部にヨーロッパ調の装飾が施されていたり。リビングには50型ぐらいの、当時としてはかなり大型の液晶テレビが置いてありました。大きくて真っ黒なテレビの前、その床で、生まれたばかりの赤ちゃんが大声を出して泣いていました。そんなのは普通と言えば普通の風景なのかも知れません。でも私は、なるほど、彼は家庭を持ったのだな、なんて妙に改まってそう感じました。

 

それ以降は毎年の年賀状だけで「今年こそ遊ぼうぜ」「飲みに行こうぜ」「第2子が生まれました」なんてやりとりをかれこれ10数年。でもその間、ついぞ会う事はありませんでした。

私も彼も今では「働き盛り」と呼ばれる年齢に差し掛かって来ています。彼が今どんな職場でどのような部下を持ちどのような仕事をしているのかは私は知りません。でもきっと彼は昔から変わらないあの軽い調子で、あの時と同じちょっと歪んだ笑顔で、時には何かに怒りながら、そして社会の不条理を我慢し飲み込みながら、お気楽だったあの学生時代と変わらないまま今でも生きているんだろうなと、私にはそんな事が容易に想像できます。

 

「じゃあその辺の飲み屋街に行ってみるよ。キジちゃんサンキュー」

「ああ。今度さ、機会があったら飲みに行こうよ」

「おう、行こうぜ。とりあえずまた連絡するわ!」

彼からの連絡は来ないだろうし、私からも連絡はしません。今後もせいぜい年賀状のやりとりをする程度の関係でしょう。

でも彼は今日もこんな感じで過ごしているんだろうな、なんて事が私には分かるし、彼からしても私が今どうやって生きているのかが分かる事でしょう。会わずとも「お互いいつまでも変わんねーよな」なんて、私達はお互いに思っています。

 

 

また何年か後に突然電話がかかってきて

「おう、久し振り。キジちゃん元気にしてた?」

「すげー久し振りだな。こっちは変わんないよ。そっちはどうよ?」

なんて会話をするのでしょうね。

 

そんな彼は、いつまでも変わらない、私の友達。