キジログ@愛

鴨宮☆隆がその半生を綴るブログ

もう一人の旧友

自宅の換気扇の下でタバコを吸っていると、LINEに通知がありました。

K「え!Facebook見たんだけどキジちゃん仕事変えた?」

K「前の仕事どうしたの?」

K「あ、ちなみに俺、Kねw」

彼は大学時代の友人でKと言います。連絡が来ること自体数年ぶりだったのですが、なにやら突然意味の分からない事を言い出しました。

私はFacebookでは勤務先名は非公開としていますが、友人の手伝い(法人立ち上げの際の名義貸し)をしている会社の名称は公開していたような、そんな事を思い出しました。

私「仕事は変わってないよ。友人の会社に名義を貸してるだけ」

K「びびったー」

私「Kは今なにやってんの?」

K「俺は税理士法人事務所田中&Partnersで働いてる」

K「税理士資格は登録申請中」

K「そういえば去年の3月に国内MBAを主席で卒業してきたw」

私「主席wすごいじゃんw」

しばらく連絡を取らないうちに、彼は大きく成長()していたようです。

 

大学時代の彼は、大きな図体に似合わず常に何かにビクビクした内面を持ち合わせていて、いつも他人からの評価を気にしており、その裏返しからか陰で他人の悪口を言い、学科内の噂話が大好きで、女の子に惚れやすく、でも自己肯定感は極端に低く、それでいて自虐ネタもいけるという、不思議だけど付き合ってみるとなんとも愛嬌のある男でした。

 

彼の実家は関東地方にある工業地帯のど真ん中にあって、そこは昔ながらの下町で、公害に汚染された空気と町中の至るところにいる不良たち、祭りになればガラの悪いテキ屋が町中に溢れ、外国人、殺傷事件、ダイオキシン、老人、そんなものが雑然と居並ぶ環境で育ってきたのだそうです。

生来気弱だった彼は、そんな劣悪な環境の中で、ずっと息を潜めるようにして生きてきました。薄汚い町の片隅で、生まれを呪い、親を恨み、人生に対する復讐心を腹の奥底にずっと秘め続けながら。

 

大学生になった彼は一つの目標を打ち立てました。よくある話なのですがそれは将来起業して金持ちになるというものです。その為には学生である今、勉学に励み将来に備えなければなりません。

地頭が良かったのか成績は常に上位で、目標としていた教授のゼミにも無事に入り、ゼミの○○ちゃん、あのブサイクがさー、あのハゲ(教授)はさー、なんて人の悪口を言いながらも上々の成績で大学を卒業、第一希望だったIT企業への就職を果たしました。

 

大学を卒業後も彼との交流は続きました。

私も彼もバイクが好きで、何度か一緒にツーリングに行った事があります。特に思い出深いのは、二人で伊豆の山奥までツーリングに行ったときの事です。

山の山頂からはとても綺麗な夕焼けが見えました。その夕焼けも間もなく沈もうという頃、私は自分のバイクの後輪がパンクしている事に気が付きました。どうしようかと思いましたが、いや、あとは山を下るだけだ。下るだけ下って麓のバイク屋まで行けばなんとかなる。そう考えてそのまま出発したのですが結局は1キロも走れずロードサービスを呼ぶ事となりました。

JAF「申し訳御座いません。只今混み合っておりまして、到着まで1時間半程お待ち頂く事になりますが・・・」

その日は日曜日で、明日は二人とも普通に仕事です。辺りは既に暗がりに覆われていました。焦りが募ります。そして、一緒に来ているKに対しとても申し訳ない気持ちになりました。

私「K・・・ごめん。お前も明日仕事だってのに・・・」

K「え?俺は全然いいけど?むしろこんなの貴重な体験じゃん?」

私「・・・本当にごめん」

K「とりあえずさっき買ったお土産の菓子でも食いながら待とうよ。・・・あっ!キジちゃん!なんか狸みたいのがいる!ほらあそこ!!」

JAFの到着まで1時間半、山を下るのに1時間、パンク修理に40分間。その間Kは嫌な顔一つせずずっと私に付き添っていてくれました。

バイク屋「修理終わりましたよー」

私「すみません・・・営業時間が過ぎているのに無理言って修理して頂いて本当に助かりました」

バイク屋「いえいえ、困ったときはお互い様。でも大変ですね、お二人とも今から○○市まで帰るんでしょ?」

K「いや全然余裕ですよ。この時間からなら深夜2時ぐらいまでには家に着きますから。それなら十分寝れますよw」

バイク屋「いやーwww でも夜ですから気をつけて下さいね」

 

帰りの高速はとても寒く、少し走るだけで疲労が限界に達し、私達は何度も何度も休憩を挟みながら時間をかけて家まで帰りました。結局家に着いたのはKが予想した通り深夜2時頃でした。

帰りの道中、やはり私は申し訳なくて、何度かKに謝まりました。でもその度に「いや、俺はホントに全く嫌でもなんでもないから。それよりもキジちゃんの方が疲れてるんじゃない?大丈夫?」なんて言ってくれて。本当はKだってとても疲れているだろうし、明日の仕事にも確実に響くことでしょう。でもそんな事は一切態度に出さない。人の痛みを知り、それに寄りただ添ってあげる。これが「人の優しさ」という物なのだな。彼からはそんな事を学びました。

 

その後はお互い忙しくなり、一緒に遊ぶ事もなくなり、たまにお互いの身の上を連絡する程度の仲となりました。

彼が私に伝えてきた事は、新卒で入ったIT系の会社を辞めた事、長らく守ってきた純潔(単なるDT)を京急線沿線の町で捨てて来た事、その後初めての彼女が出来た事、新しいバイクを買った事、傷害事件に巻き込まれ障害を負った事、自宅に籠もって何らかの勉強をしていた事。

 

 

K「俺が今いる事務所は国内TOP4の所」

私「へー、がんばってるんだ」

K「がんばってるよ。2年後ぐらいには独立予定」

K「ところでキジちゃんのその友達の会社、なにやってる会社?」

私「ああ、○○関連だよ」

K「不躾なお願いなんですけど、その社長さん紹介してくれない?」

K「私はいま広く人脈を形成している途中で、友達のその業務内容なら繋がっておいたらいろいろ広がりそうなんですよね」

K「あと今度異業種交流会があるからその友達に来て貰うようにキジちゃんから言っておいてくれないかな」

K「MBAを主席で卒業した私は既に大企業の社長さんや役員さんとも人脈がありますし、その彼にとっても何かしらのメリットは提供できると思います」

K「あとキジちゃんも、もし不動産関係で投資をお考えだったら私に是非相談して下さい」

K「不動産投資の新制度に関して税制上のメリット(略)」

K「誰か経営者の知り合いがいたら(略)」

 

このまま会話を進めていたらそのうち壷か絵画、もしくはアムウ○イ的な何かを買わされるんじゃないかと思った私は以降既読スルーを決め込む事にしました。

気弱で優しかった彼も今やバリバリの意識高い系()です。でも劣等感を逆手にここまでの飛躍が出来るのは素直に凄いと思います。彼にはこのまま高い意識を保ったまま勝手にどこまでも飛んでって頂ければ幸いです。ただし俺の人生には干渉するなよ( ´_ゝ`)

 

そんな彼は、人生を妙な方向に拗らせてる、私の友達。