キジログ@愛

鴨宮☆隆がその半生を綴るブログ

青年期の終わり

いつの頃からか一週間はあっという間に過ぎるようになり、三十一昼夜の塊は瞬く間に移ろい、気が付けば一巡した季節とともに俺はまたひとつ歳をとっている。仕事は相変わらずうまくいかないしプライベートでも特に波はない。俺は今ただただ平坦な日々を消費している。そんな毎日の中で昔と違うのは、肉体の衰えを感じる事だ。抜け毛は増え肌艶はなくなり老眼が進行し全身の疲労感は一日中抜けない。下の方も、下降気味だ。アラフォーともなればいろいろと衰えるのは当たり前なのだろうが、絶対に俺は老けない、などと無条件かつ無根拠に自分を信じ込んでていた二十歳そこそこの頃のマインドを引きずったままの俺としては、自身の老化を目の当たりにするとそれでもやや堪えるのだ。とは言え年齢的にはもはや紛れもない中年であるし、この歳ともなれば何かと衰るのも仕方ない事だとは分かっている。だがこの所その衰え具合が尋常ではないのだ。最近では一日に数度、身体が動かせない様な疲労感を感じる。そしてやる気が全く出ない。最近では土日も家の中で何もせずに過しごしている。何かをしようにも気力がゼロでベッドに寝転がって過ごす以外の事は出来ないのだ。さすがにこれはマズイと思いネットでいろいろ調べてみた結果、恐らく更年期障害に陥っているのではないかとの結論に達した。ネット上に『男性の更年期障害チェックリスト』なるものがあり、それを試みた結果俺は殆どの項目でそのリストに引っかかった。疲労感、手足のこわばり、抑うつ状態、精力の減退、眠りが浅い、記憶力の低下、などなど、とにかく悉く当てはまる。そのサイトによると『男性の更年期障害の原因はテストステロン(男性ホルモン)の減衰が原因』との事であったが、これには日頃のストレスがかなり影響するらしい。言われてみればここ数ヶ月間はずっと焦燥を抱えたまま毎日を送っている。それは仕事が原因だった。価格競争の激化、縮小するばかりの業績、増税、下がる給料、上がる最低賃金、いつ終わるとも分からない会社、自分に合わない仕事、しかし辞める事は許されない責任。ある日曜日の朝、死んだ顔をしたまま自宅の換気扇下で休んでいると家族が俺の顔を覗き込んできた。怪訝そうな表情で。だが何を言うわけでもない。その人には普段から「お前が何を考えているのかは、直接的に言われないと自分には分からないから、何かあったら分かりやすく言葉で伝えてくれ」と言われている。だから俺はその人に、今の自分の状況を伝えた。俺は今、ダメだ。疲れている、やる気が出ない、夜もあまり眠れない、恐らく軽い鬱だ、土日も身体が動かない、何もできない、だから悪いが、しばらくはよろしく頼む。口に出したら理解してもらえたようだ。その日から俺は家の仕事を一切やらなくなった。仕事から帰ったら出された飯を食い沸いている風呂に入り歯を磨いてすぐに自室に引きこもり、テレビを付けて眠くなるまで一人で過ごす。朝は複数の目覚まし時計で無理矢理に起き、身体の奥深くに染み込んだ疲労感をブラックコーヒーで掻き消し会社に出かける。俺はただ黙々とそんな毎日を繰り返す。正直に言うと、このところ毎日がツライ。調子を崩して二ヶ月ぐらい経つが、ずっと、ギリギリの所でその日その日を誤魔化しながら生きている。これが更年期、なのだろうか。もはや完全に物語を閉じた青年期と、今の俺がいる更年期、そしてこれからやってくるであろう終末期。いつの日か自分がしょぼくれた爺さんになるなんて今はまだ信じられないが、二十歳の頃の俺が今の俺に対して抱いていたみたいに、それはただ無根拠なだけの幻想で、この四季は加速度を増していき、そうして俺は確かにひとつずつ歳を取ってゆくのだろう。そしていつの日か俺は死に、俺の身体だったものは灰となって自然に帰る。希望にも似た幻想は非情な現実によって無残にも打ち消され、そして俺は無となるのだ。後には、何も残らない。せめてその時までに、何か一つでも納得していたいものだ。鏡に映る疲れた不惑の男を見つめながら、俺はそう思った。あとおっぱい揉みたいとも思った。いやマジで。