雨の日と紫陽花と蝸牛と
紫陽花(あじさい)が好きなので、見かけるといつも写真を撮ります。
スマホの画像フォルダには、日常のなんてことのない画像と共に、過去何年か分の紫陽花の写真が入っています。
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何年か前のこの時期に、鎌倉の長谷寺に行きました。
紫陽花で有名なお寺です。そこは花を見る人で溢れていました。
並んで順番を待ち、紫陽花通路とでも言ったような順路を列を成して歩きます。
旧いフィルムカメラを携え、紫陽花の写真をたくさん撮りました。
家の近くにある公園には、毎年たくさんの紫陽花が咲きます。
昔からこの時期にはいつも、公園に広がる一面の紫陽花を見ていて、子供の頃はこれと言った感慨もなかったのだけれど、いつの頃か、自分は紫陽花が特別に好きである事に気が付きました。
公園の紫陽花にはよく蝸牛(カタツムリ)が付いていて、子供の頃はそれを捕って虫籠に入れ、千切ってきた葉っぱやエサとなるキャベツを与えました。
飛び出した目玉を指でつつくと目が引っ込みました。水が蒸発して無くなると、今度は殻に閉じこもって動かなくなります。
このなんとも不思議な生き物を、子供だった私はいつまでも興味深く観察していました。
日本にある四季の中で、梅雨は一般に嫌われています。
「夏は暑くて汗をかくからイヤ。冬は寒くて外に出たくない。秋は家で静かにしていたいし、春は花粉が飛んでいるでしょう?」
それなら梅雨はどうなの。そう聞いたら、
「かわいい傘とレインコートを着るからいいの。長靴も、お気に入り」
私にはよく分からない価値観だけど、いいならそれでいいのかな。
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住宅街の一角で、雑多に咲いている紫陽花の写真を、私は今日も撮りました。
どこにでもある、なんてことのない花だけど、だからこそ好きなのかも知れません。
億劫がって何年も現像に出していないこのフィルムには、いつかの、なんてことのない、素敵な光景が焼き付いていることでしょう。
その花を愛するように、私はただ、そんな普通を愛せればいい。
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・・・どうだろう、今から鎌倉に行ってみない?
雨の日だからさ、電車に乗って、のんびりと。
そうそう、エスカルゴって美味しいらしいよ。え、それはイヤ?
とにかくさ、そのお気に入りの長靴を履きなよ、ほら。
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雨の日だからこそ、外に出て過ごしてみるのはいかがでしょうか。
その際は虫籠と童心とを、どうぞお忘れなく。
今週のお題「雨の日の過ごし方」(※お話しはフィクションです)